30代前半、調理師として11年間働いていた私は、次の職場が決まるまでのつなぎとしてタクシー業界に入りました。きっかけはとても単純で、近所にタクシー会社があったからです。当時、新聞の折り込みチラシにその会社の求人広告が載っていて、「これでいいか」と思ったのが始まりでした。
調理師時代、私は「調理師になれば食いっぱぐれない」という単純な発想でこの道を選びました。確かに調理師として働いていた時は、家計での食費がほぼ0で済み、生活には困りませんでした。ただ、次の調理の職場を探すまでのつなぎとしてタクシー業界に入ったものの、ペーパードライバーだった私にとって最初は苦労の連続。事故も多く、つらい日々が続きました。それでも、大きな会社の中で気の合う仲間と出会い、徐々に仕事に慣れていきました。
給料が調理師時代の倍近くになり、休みの自由度も高かったことから、居心地の良さに惹かれ、気づけば28年が経っていました。現在は管理職として車に乗ることはありませんが、乗務員時代に知り合ったお客様が今のパートナーになったり、人とのつながりが大きく広がったのもタクシー業界のおかげです。
京都に住んではいますが、特に京都への関心があったわけではありません。それでも何年も京都市内を走り回ったことで、自然と京都のことを幅広く知るようになりました。
今話題のライドシェアですが、タクシーの仕事も一種のライドシェアだと私は感じています。ドライブがてらお客様を乗せ、料金をいただく――その感覚こそがタクシー業務の基本だと思っています。そう考えると、私は楽しく仕事を続けてこれたのだと思います。
タクシー業界の魅力は、忙しい時期に集中して働き、閑散期には長期休暇を取れる自由さです。収入には波がありますが、年収500~600万円を目標に計画を立て、無理のない範囲で生活してきました。調理師時代も「自分の店を持ちたい」とは思わなかったように、タクシーでも個人タクシーを目指すことはありませんでした。ただ、安全第一でお客様を送り届け、必要な収入を得る。このスタンスで仕事を続けてこれたのが、28年という年月につながったのだと思います。
好きな仕事に就けるのが理想ですが、自分に合った仕事を見つけるには、必ずしも自分の意識だけではたどり着けません。人から勧められたり、「少し手伝ってほしい」と頼まれたり、偶然の助け舟がきっかけで、新しい道に進むこともあります。
最初は関心がなかった仕事でも、実際にやってみると自分に合っていると気づくことがあります。そうした偶然の出会いが、人生における大切な転機になることもあるのではないでしょうか。